海岸工学研究室は河口域の水環境を守るための基礎研究や新たな水環境計測技術の開発を行っています.最近の主要なトピックは,鉄鋼スラグや石炭灰造粒物などの産業副産物を活用したカーボンニュートラル港の実現,微生物燃料電池(Sediment Microbial Fuel Cells,SMFCs)による堆積泥からの電力回収と泥の浄化,ヘドロ化した環境の浄化技術の開発,洪水時の河川流量測定技術の開発などです。
これらの研究・開発を人と環境にやさしい次世代型の水辺空間・港湾の計画や設計などに役立てたいと考えています.また,海外へ最先端の海岸環境技術を発信することを目指しています。
History
河海工学は類制度発足に伴い、1977年に開設された。信州大学から余越正一郎教授が赴任し、1981年には川西澄助手、1983年には細田尚助手が研究室に加わった。1994年には水工学から常松芳昭助教授が加わり、1996年には常松芳昭助教授の転出に伴い、川西澄助教授を迎えた。1977~1999年頃の研究内容としては、開水路乱流が中心課題であった。余越教授、川西助手らは現地調査において、非定常性の著しい太田川感潮域で各種乱流量の連続長時間観測を繰り返し実施し、室内実験開水路では、多断面断層写真の技法と画像処理の技法を用い、各種断面水路の乱流の3次元特性を明らかにした。細田助手らは各種乱流モデルを用いて開水路流れの乱流特性の評価を行うとともに、乱流拡散の気候に関する理論的考察を行った。常松助教授らは山地流域の河道網系における出水の流下過程のシミュレーション法を開発するなど、感潮河川網における洪水流況の水理解析技法に関する研究を行った。
1999年には駒井克昭助手、2000年には日比野忠史助教授を迎え、2001年には改組に伴い、海岸工学に名称を変えた。2000~2009年頃の研究テーマは太田川感潮域や瀬戸内海の流動特性を対象とした地球物理的な研究テーマと閉鎖性水域における富栄養化や感潮河川における河岸干潟の特性把握などの環境的な研究テーマに取り組んでいた。川西助教授らは太田川感潮域における底面境界層の乱流構造や水質、流速の場所的・時間的変化、土砂輸送を明らかにするために現地調査、室内実験、数値解析を実施し、河川感潮域の物質輸送特性などを明らかにした。日比野助教授、駒井助手らは瀬戸内海全域を対象として流動や黒潮流路が瀬戸内海水位へ及ぼす影響などをシミュレーションにて検討した。また、広島湾を対象として底泥からの栄養塩の溶出や底泥の鉛直プロファイルの経時変化などについて現地調査、室内実験を実施し、太田川感潮域の環境汚染(干潟のヘドロ化)が海域の影響を強く受けていることを明らかにした。
2009年にはKim Kyunghoi助教、2011年には中下慎也助教、2020年にはMohamad Basel Al Sawaf助教を迎えた。2010~2020年現在は河川音響トモグラフィー法と水質・底質の環境改善が主な研究テーマである。川西准教授、Al Sawaf助教らは河川流量のリアルタイム自動観測を可能とする河川音響トモグラフィーシステム(FATS)を開発し、分派地点を有する太田川感潮域にて多地点での同時流量観測を実現した。FATSは三次市の江の川・馬洗川や中国の銭塘江、カナダのファンディー湾などでも観測実績があり、非常に有用な流量観測手法として認められている。日比野准教授、Kim助教、中下助教らは石炭灰造粒物や鉄鋼スラグなどのリサイクル材や微生物燃料電池を用いた手法を用いて水質・底質の環境改善に取り組んでいる。2018年には石炭灰造粒物を用いた水域底質改善材の開発に対する業績が認められ、日比野准教授、Kim Kyunghoi准教授が科学技術分野の文部科学大臣表彰を受賞した。
また、本研究室で学位を取得した駒井 克昭氏(北見工業大学)、Mahdi Razaz氏(University of Georgia)、Kim Kyunghoi氏(Pukyong National University)、Tocuh Narong氏(東京農業大学)は自分の研究室を持つなど国内外の大学で活躍している。